K大学の研究センターでは、いま中小企業(ベンチャーを含む)にお金を廻すための「サイバー金融システムプロジェクト」が進んでいるが、ここで必要になるのは、多数の中小企業を対象に、少ないコストで格付けを行う科学的方法である。
大企業と違って、格付け機関に格付けを依頼する資金も時間もない企業の格付けは、いきおい簡便な方法を使わざるを得ないからである。
現在あまり時間をかげずに格付けを行うための、科学的方法を研究している。
専門である「数理計画法」を利用して、財務データをもとに倒産の判別や格付けを行う方法である。
残念ながらこの方法がどのようなものか、ここでは明らかに出来ない。
公式に学会誌に発表する前に知られてしまうと、米国人の手で特許にされてしまうかも知れないからである。
企業への融資や、企業が発行する債券の価格評価にあたっては、その企業の債務不履行の可能性と、債務の回収率を予測することが必要となる。
特に、巨額の資金を企業に貸出している金融機関にとって、信用リスクの計量は今最も重要な課題である。
銀行は、資金に余裕がある企業や家計からお金を調達し、資金を必要とする企業に貸し付け、利鞘を得ている。
ところが、バブル崩壊によって多くの企業が債務不履行に陥ったため、銀行自体が倒産するという状況がやってきたのである。
バブルの黄金期、筆者は銀行マンの給料が、製造業のエンジニアの給料の五割増し以上の水準にあることについて、さる銀行幹部に不満をもらしたことがある。
その時の答えは、“われわれは、他人にお金を貸してそれを確実に回収する、というとても難しい仕事をしているのです。
エンジニアの皆さんは、ものを作るという楽しい仕事をなさっているでしょう。
ところが、私たち銀行マンの仕事は難しい上に、ちっとも楽しいものではないのです。
だから、給料くらいは高くしてもらわなくては困るのです“。
というものであった。
筆者は、当時このロジックを全く理解できなかった。
お金の回収が、そんなに難しい仕事だとは知らなかったのである。
今となれば、これが難しいことは良く分かる。
しかし、本当に彼らは、エンジニアの五割増し給料に相当する仕事をしていたのだろうか。
因みに従兄は、A銀行で長い間融資の査定に携わった堅物であった。
しかし、バブル期にまっとうな審査を行ったのが崇って、早々と子会社に出されてしまった。
当時は信用リスクの計量などほとんど行われていなかった由である。
この当然の帰結としてやって来だのが、バブル崩壊による天文学的な不良資産である。
一〇〇兆円の不良資産による銀行の倒産、吸収合併などなど。
そしてそこに追い打ちをかけているのが、「BTIS規制」である。
BIS規制というのは、自己資本比率八%を達成できない銀行は、国際業務から撤退しなくてはならない、という規制である。
この規制の妥当性にはよく検討されている。
二〇〇二年に予定されている改正BIS規制では、“八%の自己資本規制がいやなら、自ら信用リスクをきちんと計算し、たとえば、九九%VaRが自己資本以下なら、それでも良いことにしましょう”、といった方式になるらしい。
例えば、一定期間の損失額が二〇〇億円を超える確率が一%であったとき、二〇〇億円を九九%VaRという。
つまりある銀行が、”信用できる”「内部モデル」を用いて信用リスクを計算し、そのリスクを十分カバー出来る自己資本を持っている場合には、(仮に自己資本比率が八%以下でも)BIS規制をクリアする。
ところが、信用リスクの計量が出来ない銀行は、依然として自己資本比率八%を要求されるというのである。
この結果、信用リスクを計量する内部モデルを持っている銀行と、そうでない銀行の間で、大きな差がつくことになる。
そしてこの分野でわが国は、欧米の先進銀行に大きく遅れているのである。
信用リスクを計量するためには、各企業の債務不履行確率を計算することが求められる。
ここで問題になるのは、企業Aが債務不履行になれば、これによって企業B、Cも債務不履行になる、という連鎖反応である。
つまり、企業の債務不履行は互いに関連しているのである。
大きな銀行の場合、貸出し先の企業は数万社に達する。
これらの企業の債務不履行の確率や相関係数を求めた上で、九九%VaR点を計算しなくてはならないのである。
このために必要となるのが、超大型シミュレーション技術である。
金融工学者の貢献が強く求められている分野である。
このような作業を行う場合の一番のネックは、わが国の場合、企業の倒産や債務不履行に関するデータの蓄積が乏しいことである。
こういう時こそ、政府が音頭を取って、各銀行が協力してデータ・ペース作成やモデル構築に協力すべきであるが、銀行ごとに貸出し先データは秘中の秘とされており、協力は不可能であるとされている。
しかし近々、多くの銀行の統合・合併が実現する。
この結果、少なくとも従来より何倍かのデータが集積されるであろう。
また、個別銀行が単独にモデルを構築するより、全国で開発した方が相対的にコストも少なくてすむことは明らかである。
信用リスクモデルの構築は、BIS規制が存在する限り、国家存亡に関わる大問題である。
国を挙げてこの作業に取り組まないと、わが国の金融ビジネスは、この規制によって息の根を止められることになるかもしれないのである。
投信ブームやインターネット株取引の隆盛の中で、書店にはI般投資家向けの株式投資指南書が溢れている。
これらの本を開くと、チャートを使った様々な投資戦略が目に飛び込んでくる。
これは株価の変動をグラフにして、その中から典型的な買いパターンや売りパターンを読みとって、株を売買する方法で、その代表例ゴールデンークロスである。
これは過去一〇〇日間の株価の平均をプロットした線、いわゆる百日線が、二百日線を下から上に横切る時は将来値上がりが予想されるので買い、という戦略である。
これとは逆に、百日線が二百日線を上から下に横切る点はデットークロスと呼ばれ、ここから先は株価下落が予想されるので売りだという。
また、三尊天井(ヘッド・アンド・ショルダーズ)は、株価が上昇から下降に転じるときに良く現れるパターンだと言われている。
ここでは、出来高増を伴う第一の山(左肩)が現れ、一旦反落の後二番目の山(頭)が現れる。
次いで、出来高が減少する中で三番目の山(右眉)が形成され、以後急激に株価が下がってゆくというパターンである。
これに対応する売買戦略は、右肩を越えて売却点まで株価が下落したら、以後もっと急速に下がることが多いので売る、というものである。
これと対になるのが、三尊天井の上下をひっくり返した、逆三尊天井の時の買い戦略である。
このように、チャートや過去の株価データをもとに作られる様々な指標を用いた「テクニカル分析」は、二〇世紀初頭に(ダウ平均に名を残す)チャールズ・ダウが発見した「株価傾向線」、一九三〇年代の「エリオットの波動理論」以来の長い歴史をもつものである。
しかしこれらの方法は、経済学者たちからは、理論的根拠がないとしてこれまで完全に無視されてきた。
彼らは、株価の動きはランダム‐ウォークだと想定して理論を組み立てているからである。
何の法則もない動きをもとに、売買戦略を立てることなど不可能だというのである。
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