セールスフォース・ドットコム(SFDC)は、ビジネス向けSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)の象徴的企業であり、常に新たなコンセプトを繰り出して市場を活性化してきたことでも知られる。そのSFDCは、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)のコンセプトを早くから打ち出しSaaSプラットフォーム・ベンダーとしての色合いを強めていたこともあり、現在ではSaaSとPaaSを提供するクラウドコンピューティングの旗手として認識されている。 米本社で技術者経験も持つ、日本のSFDCの、技術の“顔”である及川喜之CTOは、クラウドコンピューティングについて「昔から言われている“インターネットコンピューティング”という言葉に言い換えることも可能なもの」と考えているという。 技術力とマーケティング力を武器に 同氏によると、かつてインターネットコンピューティングという言葉は、主にインターネットを活用するネットワークサービスそのものを指して言われていたが「そのレイヤーが上がり、アプリケーションの提供サービスを指すASPやSaaSが登場し、さらに仮想技術などの進化によりハードやOSもネットワーク提供するクランドコンピューティングに進化してきた」という。ASPが、カスタマイズやマルチテナントなどのアーキテクチャーやキーワードを取り入れることにより、SaaSに進化していった過程に近いものがある。 SFDCもかつては、ソフトでもないハードでもない「オンデマンド」というキーワードで当時のASPと差別化していた。無論、柔軟なカスタマイズ性とマルチテナントという技術あってのことだった。続いて、Web2.0という言葉が登場すれば自らを「Web2.0企業」と名乗り、SaaSブームでは見事SaaSの旗手として立場を揺るぎないものにした。現在はクラウドコンピューティングの代表的企業として認められている。 これもPaaSをいち早く標榜し、すでに提供してきた実績があってのことといえるが、時代の流れを素早く読み、ダイナミックにコンセプトを変換させていく強力なマーケティング力は、かつてのマイクロソフトを彷彿とさせるものがある。伝統を重んじる日本の企業が最も不得意とする分野であり、これこそが本場米国のベンチャー出身企業の強みであることは間違いない。 運用コストにメス 及川氏は、クラウドコンピューティングが国内でも注目されている大きな理由として「企業のIT投資の使われ方」に潜む問題があげられるとしている。それは大企業のIT投資の大半が、過去のIT資産の運用に回されているということだ。ハードやソフトを自前で運用している多くの企業の情報担当者は、過去の膨大なIT資産にデータ量の増大やIT化の促進などが加わることにより、その運用コストがどんどん膨張していることを感じているという。 一方、会社としては「毎年莫大なIT投資をしているのにもかかわらず、企業経営を支援するような新たなアーキテクチャーを備えたシステムが登場することがきわめて少ない」と感じているという。毎年予算が増やされても、その分が増大した運用コストに回されているのが現状だという。つまり、企業のIT投資の多くが「現状維持」のために使われているということになる。 また、クラウドコンピューティングの場合、ハードやソフトだけでなく運用コストが大幅に削減される。その分企業がITによって本当に強化したいと考えているコア・コンピタンスに予算を割くことが可能になる。さらに短期間で実稼働可能なクラウドコンピューティングは、めまぐるしく変化を遂げる現代のビジネスシーンにもっともマッチしたITサービスの、有力な選択肢のひとつといえる。 先日、H&M(エイチ・アンド・エム)原宿店のオープンと同時に発売された、H&Mとコム・デ・ギャルソンのコラボレーションアイテム目当てに行列ができたように、ファストファッション企業とファッションデザイナーとのコラボが、ここ数年話題を呼んでいる。参加するデザイナーは大御所から新進気鋭までさまざまだが、通常なら高価なデザイナーアイテムを手ごろな価格で手に入れられるのが魅力だ。 ただし、数量限定販売の場合が多く、人気ブランドの商品は即日完売となるのが通例。発売初日には開店前から行列ができ、売り場では顧客間で商品争奪戦が繰り広げられる。それゆえ、転売を目的とするインターネットオークションの格好の商材になり、本当に欲しがっている顧客が正規の価格で買えないといった現象まで起きている。 やや過熱ぎみにも見えるが、「いいものを安く買いたい」という昨今の消費者心理をうまくつかんでいるデザイナー・コラボ商品。なかでも話題を集めているのが、日本上陸から2カ月以上経った今も熱気の冷めないH&Mと、国内SPA企業のなかでもとりわけ好調なユニクロだ。両者ともここ数年、デザイナー・コラボに積極的に取り組み、毎年恒例の事業として定着している。 ファストファッションがデザイナー・コラボを手がける狙いは何か。単なる話題づくりにすぎないのか、それとも…。両者の取組みを探っていくと、コラボに対するスタンスの違いが明らかになってきた。 2号店までの話題継続に寄与した「H&M×コム・デ・ギャルソン」プロモーションと“ハイファッション”イメージ訴求に効果絶大 小雨降る11月8日の土曜日。日本2号店となるH&M原宿店には、約2000人が押し寄せ、オープンを待ちかねた。彼らのお目当ては、この日世界に先駆けて発売されるコム・デ・ギャルソンとのコラボ商品。日本を代表するファッションデザイナー、川久保玲氏が手がける希少な限定コレクションとあって、2カ月前にオープンした銀座店にも約1000人が行列。原宿店には3日前から徹夜で並んだという熱狂的なファンもいた。 H&Mのデザイナー・コラボ第1弾は2004年にさかのぼる。シャネルのデザイナーであるカール・ラガーフェルドが約30の限定コレクションを発表。パリモード界の重鎮であるデザイナーだけにコラボプロジェクトは世界中で話題を呼び、“チープなファストファッション”にすぎなかったH&Mの企業イメージを飛躍的に高めた。また、後続デザイナーにも少なからず影響を与え、翌年にはステラ・マッカートニー、2006年はヴィクター&ロルフ、2007年はロベルト・カバリがコラボコレクションを発表。歌手のマドンナやカイリー・ミノーグとのコラボも話題になった。そして日本上陸の目玉として取り組んだのが、コム・デ・ギャルソンの川久保玲氏。日本ファッション界の第一人者とのコラボは、H&Mの存在すら知らなかった日本の消費者にその実力を見せつけることとなった。 川久保氏とのコラボについて、H&Mのマーケティング責任者、ヨルゲン・アンデション氏はこう語る。 「川久保玲氏は我々のリストのトップに挙がっていた。日本への上陸に合わせて電話で直接コンタクトをとったところ、数日後に興味があるとの返事をもらい、実現した。H&Mのコンセプトは、あまりお金をかけずに誰でもおしゃれを楽しめること。そして、お客さまにサプライズを与えることだ。これまでいろんなデザイナーと取り組んできたが、常に驚きのある新鮮なファッションを提供するという姿勢は今後も変わらない」 また、H&MジャパンのPR担当マネージャー、ミエ・アントン氏も「毎年新しいサプライズを与えることがH&Mの方針」と語るように、同社ではデザイナー・コラボを話題づくりやプロモーションの一環と位置づけているようだ。世界的に著名なデザイナーとのコラボで世間の注目を集め、“最先端を行くファッションブランド”というイメージアップ効果と新たな顧客の獲得を狙っている。 ちなみに、業界内ではデザイナーとの契約金が数億円にのぼるとの噂もあるが、商標権使用料や売り上げ、波及効果を考えるとそれも妥当な金額なのかもしれない。 世界戦略の一環として取り組むユニクロキーマンが語る、デザイナー・コラボの狙いとは? 一方、ユニクロの「デザイナーズ・インビテーション・プロジェクト」も発売までの反響が大きく、話題づくりに効果を発揮している点は同じ。 今年5月に発売された人気急上昇中の中国系アメリカ人デザイナー、アレキサンダー・ワンとのコラボ商品は、深夜2時のオンラインストア開店後わずか40分余りで完売。もちろん店頭でも同様の争奪戦が繰り広げられた。ユニクロ銀座店では開店2時間前から長い列ができ、開店直後の混雑ぶりは「フリースブーム以来だった」と、店舗スタッフは振り返る。さらに、ネットオークションでも定価の3倍近い値がついた。定価3990円の商品がなんと1万2000円。それでも、早くから発売を待ちわびていたファンにとっては、通常のコクションラインの5分の1以下の価格とあってオークションで購入した人も少なくない。 ただ、前述のように、H&Mがプロモーション効果に重点を置いているのに対して、ユニクロは現在進めているグローバル戦略の一環として取り組み、世界へのブランドイメージの発信を目的としている。 「そもそもこのプロジェクトは、世界市場制覇をめざすユニクロがグローバルで通用するデザインの開発を目的に立ち上げた。そのためには、世界で活躍できる有能なデザイナーとの取り組みが欠かせない」 こう語るのは、同プロジェクトの仕掛け人であるユニクロ・執行役員の勝田幸宏氏だ。勝田氏は米国の高級小売店「バーニーズ・ニューヨーク」「バーグドルフ・グッドマン」を経てユニクロに入社し、ニューヨークにあるユニクロデザインスタジオの代表も務める。いわば、ユニクロのグローバル戦略のカギを握る人物である。 H&Mのデザイナー・コラボと同プロジェクトの大きな違いは、起用するデザイナーのラインアップだ。H&Mは第1弾のカール・ラガーフェルドに代表されるような大御所やマドンナなどの有名人を起用するケースが多いのに対し、ユニクロは若手が中心となっている。 勝田氏はデザイナーの選択基準として「ものづくりへのこだわりがあり、ユニクロのフィロソフィを共有できるデザイナーであること、さらに将来活躍できる可能性があること」を挙げている。若手の新進気鋭デザイナーと取り組むのも、「コマーシャル目的ではなく、“ベーシック”という難しいものづくりへのチャレンジであるから」ときっぱり。H&Mとは明らかに一線を画す方針と手法であることを強調する。 同社では、過去3年間で10数名の若手デザイナーを起用。なかでも、中国系アメリカ人デザイナー、フィリップ・リムとアレキサンダー・ワンのふたりはニューヨークコレクションでいま最も脚光を浴びているが、ブレイクする前から目をつけていたという。 H&Mが欧州系、ユニクロが米国系デザイナーを起用する理由は? 「大御所、有名人」と「若手」という点以外にも、両社の起用するデザイナーには違いがある。H&Mが欧州をベースに活躍するデザイナーが多いのに対し、ユニクロは米国をベースにしたデザイナーが多い。「欧州は“作品的”なもの作りが主体なのに対し、ニューヨークにはリアルクローズ(等身大のファッション)を意識したデザイナーが多いから」(ユニクロ・勝田氏)だという。これは、ハイファッション感を前面に出したいH&Mと、ベーシックなリアルクローズで勝負するユニクロのブランド思想の違いともつながっているようだ。 また、勝田氏は「シンプルなものをいかに新しく見せていくか。その難しさを理解し、実践しているデザイナーであることが、コラボの条件」と説明する。ベーシックの追求をコンセプトに、毎年微妙に異なる定番アイテムを開発し続けることは、実は流行を追いかけるよりも難しい。それを毎シーズン繰り返し、年々ベーシック商品の完成度を上げてきたのがユニクロであり、それが強さの秘密になっている。トレンド商品の開発に力を入れるH&Mとは、明らかに異なる点だ。 ちなみに、ユニクロは第1弾でフランス人デザイナーも起用したが、知名度の低さから当初の目標が未達に終わった。そこで第2弾からニューヨークのデザイナーを起用するようになったという。 両社のコラボアイテムを比較すると それでは、両社のスタンスの違いはどれほど商品に表れているか、具体的に見てみよう。 まず、H&Mとコム・デ・ギャルソンのコラボアイテムを見てみると、水玉プリントのカーディガンにロングテールジャケットとサルエルパンツ…。原宿店のオープンに駆けつけたあるファンは、「最もギャルソンらしい期待通りのコレクション」と満足そうに語った。 一目りょう然でそのデザイナーの作品とわかるコレクションを発表することでファンの満足度を高め、新しい顧客にもブランドの魅力とお得感をアピールする。今回のギャルソンとのコラボアイテムからいえることは、H&Mのデザイナー・コラボはデザイナーのクリエーションを尊重し、顧客に“分かりやすい“デザインで提供していることだ。今回もコートとドレスの追加を要望しただけ。川久保氏によるデザインとパターンを100%採用しているという。つまり、H&Mのコラボはデザイナーの知名度とアイコン的な“作品”に依存しており、その戦略はとても明快で消費者にもわかりやすいといえる。 それに対し、ユニクロのアイテムはどうだろうか。 例えば、同プロジェクト第3弾に参加したアレキサンダー・ワンがユニクロで発表したワンピースコレクション。白黒をベースにミニベストとの組み合わせやタックで立体感を出したり、配色でアクセントをつけたりと、ちょっとしたディテールの変化が新鮮だ。 全体的にすっきりとしたシンプル&シックなデザインは着こなしやすく、仕事にも遊びにも着まわしがききそう。こうしたシンプルななかにも繊細さや温もりのある、ひねりを効かせたデザインは、アジア系アメリカ人デザイナーの得意とするところだろう。ユニクロの場合は丸ごとお任せではなく、「デザイナーと一緒に作り上げていく」というスタンスで取組んでいるという。 ただ商品のレベルは高いものの、デザイナーの知名度がH&Mほどではない。それでもファッションフリークが飛びついてすぐに完売するところをみると、ユニクロ=安い日常着というイメージをもつ日本国内の業界人やファッションフリークに対するイメージアップ効果は高いだろう。 ちなみに気になる契約金だが、ユニクロの場合は若手の新進デザイナーということもあり、驚くような金額ではないらしい。また、「デザイナーのイメージダウンにならないよう、適正な生産量を見極めることも重要」と勝田氏は語る。 世界に商品を一気に発信できる、経営上はH&Mと組むメリット大? デザイナー側にとって、デザイナー・コラボのメリットは何なのだろうか。 メリットについては数多くの噂が流れているという。